世界一富士山がきれいに見える町

 静岡県知事・川勝平太氏は、文化学者である。その弁舌は詩を読むがごとく深く滑らかである。富士山への思い入れは格別で、敬服に値する。  “2月23日は「富士山(2・23)の日」−。最も高く最も美しい山、富士山を見習って「皆なろう」と覚えた高さは3776m。言わずと知れた日本一。空気が澄み、雪を頂いたいま、富士山はまさに「不二」の姿を見せてくれる。  「静岡には日本文化に根付いたものが詰まっている」とし、「静岡に来て、富士山のような高みを目指して駿河湾のように深い思いを抱き、太平洋のように大きな夢を描きましょう”と、呼び掛ける。  ちなみに駿河湾(するがわん)は、伊豆半島先端にある石廊崎と御前崎を結ぶ線より北側の海域をいい、最深部は水深2500mで、世界で最も深い湾である。  このたび松崎町有志が「世界一富士山がきれいに見える町・宣言」を目指して動き始めた。だが、かねてより富士山を愛してきた私でさえ、「世界一」とは大胆すぎると思った。でも知事の言われる駿河湾の最深部を視界に、その上に富士山が見られるのは、わが町だと思いいたる。まさに「世界一富士山がきれいに見える町」なのだ。  それに「雲見」は、伊豆半島で富士山の見える南限地である。烏帽子山:雲見・浅間神社と、富士山・浅間神社の祭神は、磐長姫命と木花之開耶姫命で姉妹、ともに信仰の山である。  「ブログ:富士おさんぽ見聞録」によれば、“当初は烏帽子山(別名、御嶽山、雲見ヶ岳、浅間山)を「神奈備」として崇めた。のち磐長姫命をあてるようになったと考えられている。かつては6月朔日に山を開き、1か月間諸人の参詣をゆるし、8日に祭礼を行った。  古くから航海の望標とされ、「豊漁・航海安全の神」として信仰された。漁民の信仰は特にあつく、沖を通るときは鉢巻きをとり、鰹漁船は鰹の心臓を供えて「ツイ」と唱えながら礼拝した”と。  また、「雲見講」というものが各地にあり、遠方からも参拝に訪れていたことも判明した。  世界一深い湾・駿河湾と、日本一高い山・富士山。それに古来より信仰の対象、「日本人の魂」となっている富士山である。少しでも早く「世界文化遺産」に登録されてほしいと願う。  私は、町有志の「世界一宣言」に諸手あげて大賛同である。日常見慣れたものに価値を見出すことは、「自己覚醒・再生」である。そして住民総体を巻き込み躍動することである。周囲が閉鎖的に思えるのは、それぞれが不完全燃焼で、発信を怠っていることによる。  富士山のように全世界が崇敬するものを、住民が引っ込み思案する必要ない。カメラやスケッチブックをもって家外へ飛びだそう。富士に酔い、パフォーマンスできたとき、「町興し」は成立する。それには現実に対面し、誰とでも言葉と心を交わすことだ。(24.1.16松本晴雄記)