伊那下神社献詠歌まき6

昭和4年  海 辺 秋 夕

もしほ(藻塩)たく煙もきえて夕まぐれ海士が伏屋の秋ぞさびしき

浪の音も松ふく風もしづまりて浦は淋しき秋の夕ぐれ

え物得て帰る濱辺は海士の子の歌にぎわしき秋の夕ぐれ

うちよする三保の浦波しづまりて月さしのぼる秋の夕ぐれ

山の端に夕日はおちて松崎や海辺さびしき秋のくれかな

なきかはす鴎の声もさびしげに霧に暮れゆく松崎の浦

きりこめて夕日も落ちる伊豆の海浪の音さむし秋たけぬらし

もみちせぬ木もあやとりて夕栄の
       にしきの浦は名にぞそむかぬ

海にてり空に彩とり入日かげさわに匂へる伊豆の浦

雁が音もさぎりにこめて夕汐のみつの濱辺はみるめさびしも

うき秋とおもひわびぬる此夕小雨にぬれてかへる釣舟
  
汐あみし海辺こひしく来て見れば今は淋しき秋のたそがれ

産土神の森のかげ高く影みえて海辺つめたし秋の夕ぐれ
                           
立浪のひびきもさびし和田つ海の袖しの浦の秋の夕暮

三保の岬松ふく風の音たかく夕浪きほふ有度の嶋山
漁り火のかげほのめきて立つ霧の中に暮れゆく松崎の浦

さらてだに身にしむものを浜松のまた枝ならす秋の夕風

並風のいそ山嵐ふきあれて濱の夕の秋ぞさびしき