伊那下神社献詠歌まき1

大正13年     無線電話

ラジオてふ器そなへて外国のものかたりきくくしきわざかも

外国もちかくなりけり大空の電の波に言葉かはしつ

坐ながらに人の言葉も糸竹の音もきゝうるラジオなるかな

ハリガネの糸はなけれど外國と今日のよしあし語り合うかな

宙もみつエレキの波をたよりにて千々の言葉きくぞ奇すしき

とふとくも世の事みなを針金の糸よりやすくきくぞうれしき

雷の力をつかい線もなく語らふ御代にあふぞうれしき

大洋をへだつる外国の友人と言とひかわすあやし世の中

進み行世を健やかにながらへて今日も恐しくラジオきくなり

よしあしの此世の人の言葉を天にしらする無線電話ぞ

冬こもるやどにまちつつ人みむと大洋はしる無線電話を

ラジオてふ器のもとに送りける電の波の業ぞおそろし

眼なくとも耳と心と二つにて言葉かわしつ稲妻の道

海山を遠くへだてて外人と語り会ふ世ぞうれしかりける

雷をたくみになして線なくも遠き彼方とかたりえられて

いなずまのちからをかりて大洋をへだつる友と語るうれしさ