御詠歌
明治20年 伊那下神社

       松下納涼
松かげやしずしとここに立よればあつさをよそに浪の音かな

すみのえや松よりをろす風すらも千とせをのぶるここちこそすれ

夏としもおもわれもせで松かげのしたふく風の音そすゝしき

              烏
明ぬとておきゆく鳥有明の月にうかれて時なたかへそ

なかし春里の林の夕まくれひとりいねじとあらそひにけり



四季の花(下に続いています)
明治20年
桜           大沢  依田

あるかなかに花見といえは桜花昔しながらや名にやしめける

こころあらばおくれて来ませ花の香を霞のひまをもるゝ嵐

春雨にほほゑむ花の面みればつたうしづくをすうここちせり


橘

千世萬さかえもゆかむ橘や君に常盤の名はおほせけむ

手枕に風かよわする橘の香をかくはしにしここてねられね

四季の花
明治20年
       秋花

白露のおきそめしよりおのづから野辺にまづとく花のしたにも

たれにかは見せむとすらん秋の野をまねく尾花のしほるしきかな

おほかたの花はさかりとなりなましにふひもちゝに秋風そふく


      早梅

咲き初し冬木の梅は久方の天きる雪をともとみなして

鶯の声もまだしき冬なからはやさきそめし庭の梅○○

冬かけて咲梅か枝は花かゆき○わかつもかふる人のしをりに

四季の花
明治20年
      松下雪
梅
さきにほふみそのゝ梅にさそわれてほふほけきやうの声そのどけき

なけわづに咲もやすらむ鶯の羽風をさえに梅かをるなり

もろともにみてをはやすむ梅の花今をさかりと鶯そなく


      蓮

はなれては又まろひあふ夕露の風にみたるゝ池の蓮葉

あたなりと よそには見えて花露の蓮のかき葉にやとるこころは

四季の花
明治20年
 蓮

にこりなき池の蓮の花さかりよする浪にも色つきにけり


      名所月

照朝は残る隈なくさらしなや田毎に月を数へてそ見む

名に高きここはあふみの鏡山さだかに見よと月はさえけり

松一木さわるかけなきすむ月に光りをそふる須磨の浦浪


      松雪

冬なから木毎に花をさかせける常盤の松も今朝はしらゆき

雪ふれば山松か枝も白妙の衣まとひて冬こもりする

明治の和歌
松雪

さしのほる雪のあしたの旭かけ見るめも清きつもる松が枝

     雪埋松 明治二十一年御題

九重の庭の松か枝千代かけて雪をいたゝく影そゆたけき

大君は松に幾千代契りけむ深くもうつむ禮もしら雪

千代八千世かさねていはふ松か枝の千と世の色を埋むしら雪

夜やふりぬ松の梢のたはむまてあさめおどろくつもるしら雪